ハリウッドの黄金時代に活躍し、世界中の人々を魅了した大女優オードリー・ヘプバーン。

『ローマの休日』や『ティファニーで朝食を』などの名作に出演し、今なおファッションアイコンであり続ける彼女ですが、実は多くのコンプレックスと戦ってきたことでも知られています。今回は彼女の名言をたどりながら、自分のなかにある「美」との向き合い方について考えていきましょう。

戦火のもとで過ごした少女時代

今から3年前、2019年5月に生誕90年を迎えたオードリー・ヘプバーン。彼女が生まれたのはベルギーのブリュッセルで、幼い頃に両親は離婚しています。父はナチスの信奉者となり、家族を捨てて出て行ったのでした。その後は母に連れられ、イギリスへ移住。第二次世界大戦中はオランダで過ごしますが、ナチスの恐怖や飢餓と戦い、チューリップの球根を食べて飢えをしのいだこともあったとか。この頃の経験が、後年のユニセフでのチャリティ活動につながったといわれています。

バレエダンサーになる夢をあきらめて

第二次大戦が終わってからは、母とロンドンへ。有名な講師にバレエを学び、着実に実力をつけていきます。しかしオードリーは、当時バレリーナとしては高すぎる170cmの長身だった上、成長期に飢餓に見舞われたことから筋肉や骨格が十分に発達せず、バレエへの夢を諦めざるをえませんでした。

代わりに周囲が勧めたのが、演劇の世界。1951年のブロードウェイ舞台作品『ジジ』では主役を演じ、1952年には映画「ローマの休日」でハリウッドデビューします。この作品でオードリーはアカデミー賞主演女優賞を受賞し、スターとしての人生を歩み始めるのでした。

ふくよかな身体つきが人気だった時代、痩せ型の彼女はコンプレックスの塊だった

しかし当時は、マリリン・モンローのような柔らかい身体つきや大きな胸が「女らしい」とされていた時代。オードリーは角張った頬や鼻に、高い身長、痩せた身体に平らな胸、大きすぎる足など、自分の身体の特徴に悩んでいたといいます。「映画の仕事をするなんて思ってもみなかったわ。こんな顔なのに」と、こぼしたことも。

また彼女は「誰かが私のことを美しいと言ったり書いたりするたびに思う。いったいどこが美しいのかしらって。古典的な美人ではないことは確かだもの。わたしがこの仕事で身を立てられたのは、美しいからではないわ」とも言っています。

そんな彼女に自信をつけさせたのが、ファッションデザイナーのユベール・ド・ジバンシィや、メイクアップアーティストのアルベルト・デ・ロッシでした。

映画『麗しのサブリナ』でオードリーが着こなしたジバンシィのドレスは、彼女のコンプレックスだった鎖骨を隠し、細い身体を美しく見せるボートネック。また『ティファニーで朝食を』のドレスは、ボーイッシュな痩せ体型のオードリーを可憐に見せるよう、ウエストにギャザーを入れてふくらませるなどの工夫がこらされています。

メイクもまた、コンプレックスの鼻を目立たせないよう、太く濃い眉と太いアイラインで瞳を強調。オードリーは周囲の人から目を褒められるたびに「いいえ、世界一美しいメイクです」と、アルベルト・デ・ロッシの技術を絶賛したそうです。

そんな彼女は、次のようにも言っています。

「わたしにとって最高の勝利は、ありのままで生きられるようになったこと、自分と他人の欠点を受け入れられるようになったことです」

自分のコンプレックスを受け入れ、ありのままで生きられるようになったこと。それが人生の「最高の勝利」だというのです。自信がなかった体型や顔を魅力的に見せるファッション、メイク。さまざまな工夫を通して、もとの自分をもっと愛せるようになったことへの自信が背景にあるのは間違いありません。もちろん仕事や母親業、チャリティなど多くの経験を積む中で、確固たる自分の軸ができていったことも関係しているでしょう。

そうして「ありのままの自分」を愛した彼女は、若さを維持することにもこだわりませんでした。

「たしかに私の顔にしわも増えました。ただ、それは私が多くの愛を知ったということなのです。だから私は今の顔の方が好きです」

しわは増えたけれど、それは多くのことを経験してきた証。それを無理に消そうとせず、人生経験と重ね合わせて愛おしいと思えているといえます。昨今は「アンチ」エイジングの美容がもてはやされていますが、オードリー・ヘプバーンの生き方からはまた違った価値観が見えてきます。その根底にあるのは「自分を知った上で、愛すること」。オードリーのように、女性らしいファッションやメイクを楽しみつつも、年齢を重ねることを決して悲観しない。そんな生き方を、私たちも心がけていきたいものですね。

 

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